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Talking about Hachinohe vol.5 玉樹真一郎氏

公益社団法人八戸青年会議所創立60周年記念対談

Talking about Hachinohe vol.5

   

全世界で1億台を売り上げた任天堂のゲーム機「Wii」をご存じの方は多いだろう。実はこのWiiの企画・開発にかかわったのが、八戸市出身の玉樹真一郎氏だ。幼いころの体験や記憶を通して、ゲームに目覚め、そして、ゲームから経験できる喜びや楽しみの根源を追い求め、誕生したのがWiiだ。世界に1億人の共感者をつくり、老若男女多くの人たちを虜にした玉樹氏との対談を通じて、八戸の“スタンダード”を探ってみたい。

 

「モノづくりと幼少期」

 

金入健雄理事長(以下、金入):私たち八戸青年会議所はまちづくり団体ということで八戸のまちの魅力の発信、青少年育成、おまつり広場の運営や花火大会の共催など様々な取り組みをしています。その中で、どうしたらもっとこの八戸エリアの素晴らしさについて多くの人たちに感じてもらえるのかなと考えながら行動しています。もしかしたら、玉樹さんの著書『コンセプトのつくりかた』やご自身の体験の中にヒントがあるのかなと感じております。Wiiの誕生秘話にもなるのかもしれませんが、生い立ちやご経歴などを教えていただけますか?

 

玉樹真一郎氏(以下、玉樹):僕は、実家が石手洗なんですけども、すごく貧乏だったんです。祖父が鉄工所をやっていたので、そこには不思議な機械がたくさんありました。丸い円盤とか金槌ですね。金槌は“げんのう”って呼んでまして、そんなものを使っていろんなモノづくりをしていたんです。貧乏なので作るしかなかったんですね、きっと。作っていると楽しいし、時間を忘れられるので、暑い夏だろうがそういうことをやっていると時間がたっているんです。きっと、その延長線上にモノづくりの企画を考える原点みたいなものがあるのかなと思います。

 

金入:何もない所から何かを自ら生み出すという幼少期の体験が玉樹さんのエネルギーの根源だったんですね?

 

玉樹:そうです、貧乏が僕のルールだったんです。貧乏というルールがあって、その上でどうしたら楽しく生きていけるかなというのを考えていたら、今の自分にたどり着いたという。大人になって考えるとゾッとしますが、幼い時に貧乏だったから、たまたまその体験を素直に受け入れられてそれが良かったなと思いますね。

 

金入:小さいころにゲームがある環境だったわけではないんですね?

 

玉樹:そうですね。ゲームとの関係は、友達の家で遊んでからです。行ってみたら訳わかんない機械が置いてあって、やってみたらテレビを動かせるわけですよ。テレビって見るだけのものだったのが動かせるって、「何じゃこりゃ‼」っていう気持ち良さがあって、それ以来小遣いで方眼紙を買ってきて、ドット絵をひたすら描いてたんですよ。

 

金入:ツイッターでちょっと話題になりましたね。ドット方眼紙ファミコン。そんなところから、クリエイティブにフォーカスしていくんでしょうか?中高もゲーマーでしたか?

 

玉樹:ゲーマーなんですけど、貧乏ですからとにかくソフトは借りてましたね。高校に科学部という部活があってパソコンが自由に使えるんです。オタクの巣なんですけど、みんな良い人でした。そしたら、高校生プログラミングコンテストというのがあって、グランプリを取ったんです。それで図に乗っちゃったんですよ。大学も電子工学の情報系の学科で、いい気になって授業でプログラム書くんですけど、周りに歯が立たないんです。そして、大学1年でプログラミングを挫折しちゃうんです。でも最終的にこのままだとダメだなって、本当にやりたいことを考えることができたんですね。気付いたのは自分はプログラムをやりたいんじゃなくて、ゲームをつくりたいんだと。プログラミングとゲーム。これが同じじゃなかったんですね。

カネイリ番町店 喫茶コーナーにて

 

「価値とスタンダード」

 

金入:紆余曲折ありながらも、最後は任天堂に向かっていったんですね。プログラミングの挫折がありながら、もっと大事な核の部分に気付いて、今の玉樹さんを構築していく。玉樹さんは任天堂に入社されてWiiの開発に携わって、世界で一番Wiiのプレゼンをした男であり、Wiiのコンセプトをつくられてきた方ですよね。私たち八戸青年会議所は“八戸スタンダード”を発信していくにあたって、良いところをどうやって発信したらいいかを考えてやっています。玉樹さんが書かれた『コンセプトのつくりかた』にも通じるところではあると思うんですが、なぜ、コンセプトのつくり方を発信しようと思ったのか、そして、八戸の良いところを発信していくにはコンセプトの観点からどういう部分が大事だと思いますか?

 

玉樹:社内では良いことを考えて提案をしても響かない。悩むんですが、そこで根本的に間違っていたことに気付いたんです。そのきっかけもゲームでした。ゲーム開発のときにプロトタイプをつくって、〇や△の図形が画面の中で跳ね回っているのをじっと見ているんです。そこに面白い要素があるかどうかを気にしていたんですが、実はそれ以上に、画面の中で起こっていることを理解してもらえているかどうかが大事だったんです。しかも、その理解してもらえている人が、ゲームを知らない人というのが大事で、その結果が説明書がなくても遊べるゲームになるんです。専門性がない人が共感できる、そういうものを考えなければいけないんです。自分たちが共感できること、理解できることから始めないと本当につくりたい企画は出てこないんです。その前提でお話しすると、ご質問の「八戸の良いところ」という表現は少し引っ掛かりますね。この「良い」という言葉は厄介で、良くできているところを繕ったり、もしくは何かを無理やり良いところに仕立て上げようとする力が働いたりするんじゃないかと。それって本当にみんなが共感できるところだろうかなと。たとえば、僕は蕪島がすごく好きですが、冬に行っても大変なところなんです。初詣とかにテンションを上げて蕪島に行くとひどい目に遭う。海風にさらされて寒い。「寒いですね」は共感できるんです。正月の海は寒いですからね。一方で、この質問の中ですごく面白い言葉だなと思うのは“スタンダード”という表現で、スタンダードという言葉には「良い」とか「悪い」という概念がないんですね。

 

金入:まさに、私たちもそのようなことを考えていまして、暮らしや風土からにじみ出るものが、本当に人を引き付ける魅力の元になるものだと思うんですね。それを運動として表現していきたいと思っています。本来八戸にあるものの中から、何らからの普遍的な価値を見出していく事が大切だと考えています。たとえば、裂織や菱刺なんかも、単に長く続く八戸で作られてきた伝統だから良いというものではなく、貧しさの中で工夫されたデザイン性だとか、生地の質感だとかそういったモノとしての良さの部分をしっかり知らなければいけない。八戸の「普通」な物事のどこに、人が感じられるが「良さ」あるのかをしっかりと見出しデザインすることで、価値がかたち作られていくように思います。そうして改めて発見された八戸では普通な事の中にある価値を、あえてカタカナで「スタンダード」と呼んでいます。

玉樹:「なぜか分からないけどこのエリアは昔から食べているんです」とか、そういった雰囲気やノリを大事にしないと日本全国の十把一絡げの観光振興の渦のなかに巻き取られてしまうような気がしています。良いことではなく、スタンダードを求めようという感覚はすごく強く共感できます。

八戸ブックセンターにて

 

「『わかる』が生み出す力」

 

金入:すごくしっくりきますね。玉樹さんは、著書やご自身のご講演などで「わかる」という本質を大事にしてらっしゃいますが、これはなぜでしょう?

 

玉樹:いま、2冊目の本の中で「わかる」の構造について書いたのですが、人の体験をデザインするときにには、あらかじめ相手の頭の中にイメージをつくっておいて、その通りに体験を構築する。すると、人は「こうなるんだろうな」と予想して試すと、結果その通りになるので「やっぱりそうか」という体験になる。これが「わかる」ということなんです。直感的に行動した結果が自分の正解だったと気付かされる。その瞬間が面白いから「わかる」につながるんです。市民が基点であれば市民が知っていることから始める。たとえば八戸三社大祭ですが、三社大祭について知らない市民がたくさんいるんです。だから伝わらないのです。「三社大祭で何を知っていますか」―。というところから始めなければならないんです。

 

金入:八戸青年会議所の不変のコンセプトに「知・即・愛」の精神があります。知ることは即ち愛すること、愛することは即ち知ることであるということを大切にしているんです。わかるには、知っていくことでしか始まらないという意見は本当に勇気づけられます。玉樹さんが考える、八戸に内在する価値、スタンダードがあればぜひ教えてください。

 

玉樹:東京に行くと、人の汗やエアコンの室外機、ラーメンのゆで汁とか他人の湿気の匂いばかりなんですよね。僕にとって他人の湿気ほど嫌なものはないのですが、八戸にはそれがない。人がいないから空いてるし。なぜ「空いてる」価値が認められないんだろう?と思います。

 

金入:たしかに、「空いている」という点だけをとっても考えられる事がありますね。八戸を知ってもらうという点でいうと、八戸青年会議所として9月22日に「ラブはちフォトリンピック」という青少年向けの事業があります。バスで色々巡るというのは、地元ならではの面白いスポットが沢山あって且つ安心して移動できる環境があるという、ここでしかできないことかなと考えています。

 

玉樹:面白いですねー。名所を撮るんだったらプロが撮った方がいいけど、名所じゃない場所はプロじゃない方が良くて、それって評価する側の問題なんですよね。市内のある場所に「危い」と書いた看板があって、すごく面白いと思うんです。それを子供が撮ったのを見て、「これ、良いよね」って言える人がどれだけいるかっていうレベルの話しで、ちゃんと共感してあげられるかが大事。周りから面白いって言われたら、たとえば東京とかに出てからも「地元であぶいって書いた看板があってさー」なんて周りに言うんですよね。そして、それを言いながら記憶に更に刷り込まれていくんですよ。その時限爆弾が5年後、10年後に「田舎に帰りたい」となって爆発するんです。だから、高校卒業までの18年間で、八戸の良い所を見せるとかではなくて、本人がニコッとできる体験をさせてあげられるかのほうが大事ですね。極端に言うと八戸には“価値”っていうのはないと思うんです。価値はそれぞれ人生の中にしかないんだと。そしてそれぞれの人生が楽しければその人たちにとって八戸に価値が出てくるんだと思います。

八戸ブックセンター内ギャラリーにて

 

  • 八戸青年会議所とは

八戸市近郊に在住する20歳から40歳までの青年経済人の集まりで「奉仕」「修練」「友情」を活動の基本として「明るい豊かな社会の実現」を目指し、八戸のまちに住み暮らす人々や子どもたちの笑顔のために活動を続けている団体。今年で創立60周年を迎え、現在で約130名の現役会員を擁する。

 

  • 玉樹真一郎(たまきしんいちろう)

青森県八戸市出身。わかる事務所所長。八戸学院大学・地域経営学部特任教授。プログラマーとして任天堂に就職後、プランナーに転身。全世界で1億台を売り上げた「Wii」の企画担当として、最も初期のコンセプトワークから、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークサービスの企画・開発すべてに横断的に関わる。退社後は八戸にUターンして独立・起業、「わかる事務所」を設立。コンサルティング、ウェブサービスやアプリケーションの開発等を行いながら、人材育成・地域活性化にも取り組む。二冊目の著書「『ついやってしまう』体験のつくりかた 人を動かす『直感・驚き・物語』のしくみ」も好評販売中。

 

  • 金入健雄(かねいりたけお)

青森県八戸市出身。第63代公益社団法人八戸青年会議所理事長。今年度は公益社団法人八戸青年会議所理事長として「新しさの港から未来へ~市民の誇りとなる八戸スタンダードの発信~」をスローガンにまちづくり運動を展開中。

 

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